身近な防災対策―災害が起こる前の備え・地震編―

今回は、各災害への備えのお話をご紹介します。

こちらではご自宅で備えていた方が良い内容(特に物理的な備え)を地震風水害に分けています。


特に小さなお子様がいらっしゃる家庭では、感染症のリスクやお子様がストレスを感じて泣き叫ぶことがあり、避難所の生活はとても過酷です。ご自宅で被災後の生活を送れるためには、「ご自宅での災害の備え」が必要になります。



◆地震に備える

阪神・淡路大震災の犠牲者の8割は建物の倒壊や家具の転倒による窒息死・圧死でした。また家具などが倒れたり、破片が散乱してしまうと避難行動の妨げになります。

まず、地震は「建物の安定性を高める」、「家具類の転倒、落下、移動防止」が大切です。


併せて、阪神・淡路大震災の際は電源復旧後の「通電火災」、東日本大震災の際は「通電火災」に加えて、津波による「津波火災」が二次災害として被害拡大につながりました。火災を起こさないための「防火対策」を行うことも望ましいです。



建物の安定性を高める

建物の耐震

建物の耐震の目安として、建築基準法では木造建築に対して「壁率」の規定があります。「壁率」とは、各階における床面積に応じ、筋かいなどの抵抗要素をどのくらい設けるかです。建物の耐震要素において重要なのは「壁の枚数」と、「筋かいなどの壁自体の構造」です。建築基準法では、必要壁量(床面積1㎡当たりどのくらいの壁を必要とするか)と壁倍率(壁幅1㎡あたりの強さ)として制定されています。

よく「地震の時はトイレやお風呂場に逃げ込む」という話を耳にしたことがありますが、これらは壁に囲まれた場所であることが多いので、あながち間違いではないということです。ただ、扉が変形してしまうと閉じ込められてしまうため、地震が起きた時は焦らずに扉を開けるようにしましょう。


阪神・淡路大震災で被害を受けた建物は、

・筋かいや壁が少ない

・壁が必要量あっても壁の足元がきちんと固定されていない、

・壁の配置のバランスが非常に悪い

という特徴を持つものが多かったとされています。


<耐震・制震・免震の違い>

地震に対してより強い構造として、「耐震(たいしん)」「制震(せいしん)」「免震(めんしん)」といった言葉を耳にしたことはありませんか?

言葉が似ていても、揺れの大きさや減震構造が違うのです。



耐震診断

耐震診断は、いまある建物にどれくらいの耐震性能があるかを調査するものです。

建築士や大工などの建築関係者が行うことを想定した「一般診断」と、一般診断の結果補強が必要と判断された場合の妥当性に関する診断を行う「精密耐震診断」があります。

これらの診断を希望する場合は、診断を行うことができる設計事務所などに直接依頼します。

一般の方が簡単に耐震診断したい場合は、日本建築防災協会HPにある「誰でもできるわが家の耐震診断」を活用しましょう。10項目で3択から答える問診となっており、住宅の耐震性に関するポイントが記載されています。

http://www.kenchiku-bosai.or.jp/taishin_portal/daredemo_sp/

(一般財団法人日本建築防災協会「誰でもできるわが家の耐震診断」2020年6月22日アクセス)

また日本建築防災協会には「木造建築物の耐震診断、耐震改修を実施する建築士事務所」の一覧や、支援制度などの情報も記載されています。

特に木造建築の場合は、専門家による耐震診断を受け、場合によっては補強をしましょう。



家具類の転倒、落下、移動防止

大地震ではピアノが部屋中を動き回り、テレビや電子レンジなどの家電製品が宙を飛ぶといったような状態が起きてしまいます。東京消防庁の調査では近年発生した地震による負傷者の30~50%がこういった家具の転倒や落下、移動が原因でした。

こういったケガを防ぐために、未然に対策を取っておきましょう。



家具の固定

金具で固定する方法や、マットやストッパーで倒れにくくする方法があります。

・ストッパー、マット(耐震化率小)

・ポール、ベルト(耐震化率中)

・L字金具、マット+ポール(耐震化率大)

・L字金具(下向き取り付け)(耐震化率最大)


ストッパーやマットでは耐震化率は小さいため、一般に大きな家具には適していませんが、他の固定方法と組み合わせることで相乗効果が期待できます。

ポールを使用する場合は天井に下からの突き上げに耐える強度が必要なため、強度がない場合は当て板などで補強が必要です。

万が一倒れた時を想定して、胸部が圧迫されにくい背の低い家具を使用することもオススメです。

イメージとどのくらい効果があるかは、内閣府 防災情報ページにまとめられていて、分かりやすいです。



<長周期地震動とスロッシング現象>

「スロッシング」とは液面が揺れ動くこと意味しています。過去の事例では液化石油ガスタンクの石油が地震の周期に合わせて共振し、大きく揺れ動いてしまったことで隣同士が衝突、火災爆発事故に繋がりました。

液が入ったものに限らず、建物などにも固有の周期があり、同じようにスロッキング現象が起こります。

このスロッシング現象を引き起こすのが「長周期地震動(ちょうしゅうきじしんどう)」といわれる数秒から数十秒続く、ゆったりとした揺れです。東日本大震災の時は、東京の高層ビルが大きく揺れているのが目で見て分かるほどだったといわれています。

液体の入った水槽やウォーターサーバーの転倒防止だけでなく、マンションやビル等は通常よりも揺れが大きくなる可能性があることは注意しましょう。

気象庁HPでは長周期地震動の揺れを4段階に分けて解説していますので、是非一度見てください。



落下物対策

落下物は直接人にぶつかるだけでなく、落下の衝撃で割れた破片もケガの原因になります。

オフィスのデスクに使用されている引き出し程度なら、簡単に開いてしまいます。食器棚等の二次被害に繋がりやすい箇所はストッパーをつけるようにしましょう。

・書棚等の収容物落下防止

・引き出し・開き戸のストッパーをつける

・重いものを下になるよう荷物の配置をする

・設備、棚の天板に荷物を置いていない

・時計など、落下しないように固定している


また、窓ガラスにフィルム等を貼っておくと、ガラス破片の飛散を抑えることができます。



家具類の移動対策

キャスター式の家具は、掃除をする際には非常に便利ですが地震の際には揺れとともに移動し、出入口を塞いだり衝突したりして避難行動の妨げになります。ベランダへの扉などがガラスの場合は、衝突して割れたり、勢い余って家具が外に落下してしまう事も考えられます。

キャスター付きの家具はロックを掛ける出入口等の近くに配置しないことを心がけましょう。

これに加えて、高層ビルなどはスロッシング現象対策として

・吊り下げ照明(天井への衝突)

・ウォーターサーバーの水等(転倒)


の防止対策を行いましょう。


詳しい家具の配置のコツなどは東京消防庁にまとめてあり、イラスト付きで解説されていますので非常に分かりやすいです。是非家具の配置などの参考にしてください。




火災に備える

地震の際は電源等が損傷している恐れがあるため、通電時にスパークして火災につながる恐れがあります。また、そもそも電気ストーブなどの暖房器具が転倒したままだと、そのまま火災につながります。そのため、地震で停電した際は、まずは主電源のブレーカーを切っておき、安全な状態を確認してから電源を入れ直しましょう。避難するときも同じで、必ず切っておきましょう。

最近では震度5弱以上の揺れを感知すると自動的に通電を遮断する感震ブレーカーもあります。

また、着火しにくく燃え広がりにくい素材の「防炎製品」の使用も火災を防ぐ方法の一つです。



【参考】

NPO法人 日本防災士機構(2018年)「防災士教本」

NPO法人ママプラグ(2019年)「全災害対応!子連れ防災BOOK」

内閣府 HP「できることから始めよう!防災対策 第2回」

(http://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h25/72/bousaitaisaku.html 2020年6月22日アクセス)

内閣府 HP「感震ブレーカー等の性能評価 ガイドライン」

http://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/denkikasaitaisaku/pdf/kanden_guideline.pdf 2020年6月23日アクセス)

東京消防庁HP「家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック」

https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/hp-bousaika/kaguten/handbook/index.html 2020年6月22日アクセス)

一般財団法人日本建築防災協会HP「誰でもできるわが家の耐震診断」

http://www.kenchiku-bosai.or.jp/taishin_portal/daredemo_sp/ 2020年6月22日アクセス)

気象庁HP「長周期地震動説明ビデオ」(https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/choshuki/choshuki_eq5.html 2020年6月22日アクセス)